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高松地方裁判所 昭和29年(ワ)315号 判決 1956年7月16日

原告 薦田林太郎 外八名

被告 四国電力株式会社

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、「被告は原告薦田林太郎に対し金五万七千円、同薦田知子に対し金一万四千円、同笹部三郎に対し金六万五千円、同守武勉に対し金二万五千円、同谷憲明に対し金七万六千六百円、同峰口茂に対し金四万五千円、同鏡原艶子に対し金十万円、同岡兼三に対し金八万円、同高倉礦業株式会社に対し金三十二万円及び昭和二十九年七月九日より支払ずみに至るまで、年五分の割合による金員をそれぞれ附加して支払わねばならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のように述べた。

「(一) 訴外昭和製紙株式会社(昭和二十八年三月二十八日開催の株主総会で取締役が改選せられ代表取締役に高倉矢一が就任し、同年五月二十八日社名を高倉製紙株式会社と変更した)は昭和二十七年十一月二十六日松山地方裁判所西条支部に対し、会社更生法に基く更生手続開始の申立を為し、同二十八年五月一日右裁判所において、右会社に対する更生手続開始決定があり、国方昇、石川勅滋、唐津志都磨の三名が管財人に選任された。ところで、同裁判所より会社更生計画案を同二十九年三月三十一日までに提出するよう命ぜられたが、右期日までに提出出来なかつた為に、同年四月十六日会社更生法第二百七十三条により更生手続廃止の決定を受け、右決定は同年五月二十六日に確定し、更に同月二十八日に同法第二十三条並に破産法第百二十七条により破産の宣告を受けたものであるところ、

(1)(イ)  原告薦田林太郎は右高倉製紙株式会社(以下訴外会社と略称する)の社員で、同会社より一ケ月金一万八千円の給料を得ていたが、昭和二十九年二月分より同年四月分までの給料合計金五万四千円の内金一万五千円の内払を受けたのみで、残額金三万九千円の支払を受けていないのみならず、同年四月末日解雇の予告を受けたが解雇手当金一万八千円の支払も受けられなかつたので、未受領合計金五万七千円につき、同年五月一日高松法務局所属公証人藤井良雄役場において、訴外会社との間に、登簿第二万二千九百二十四号公正証書により、同月二日までに支払う旨の債務弁済契約を締結した。

(ロ)  原告薦田知子は訴外会社の社員で、同会社より一ケ月金五千五百円の給料を得ていたが、同年三月分及び四月分給料合計金一万一千円の内金二千五百円の内払を得たのみで、残額金八千五百円の支払を受けていないのみならず、同年四月末日解雇の予告を受けたが解雇手当金五千五百円の支払も受けられなかつたので、未受領合計金一万四千円につき、(イ)同様、右公正証書により債務弁済契約を締結した。

(ハ)  原告守武勉は訴外会社の社員で、同会社より一ケ月金一万円の給料を得ていたが、同年三月分及び四月分の給料合計金二万円の内金五千円の内払を得たのみで、残額金一万五千円の支払を受けていないのみならず、同年四月末日解雇の予告を受けたが解雇手当金一万円の支払も受けられなかつたので、未受領合計金二万五千円につき、(イ)同様、右公正証書により債務弁済契約を締結した。

(ニ)  原告笹部三郎は訴外会社の社員で、同会社より一ケ月金二万円の給料を得ていたが、同年二月分より同年四月分まで合計金六万円の内金一万五千円の内払を受けたのみで残額金四万五千円の支払を受けていないのみならず、同年四月末日解雇の予告を受けたが解雇手当金二万円の支払も受けられなかつたので、未受領合計金六万五千円につき、同年五月一日前記公証役場において、訴外会社との間に、登簿第二万二千九百二十五号公正証書により同月二日までに支払う旨の債務弁済契約を締結した。

(ホ)  原告峰口茂は訴外会社の社員で、同会社より一ケ月金一万五千円の給料を得ていたが、同年三月分及び四月分の給料合計金三万円の支払を受けていないのみならず、同年四月末日解雇の予告を受けたが解雇手当金一万五千円の支払も受けられなかつたので、未受領合計金四万五千円につき、(ニ)同様、右公正証書により債務弁済契約を締結した。

(ヘ)  原告谷憲明は運送業者であるが、同年一月一日以降同年五月までの訴外会社に対する運送賃債権合計金七万六千六百円の支払を受けていないので、同年五月一日右債権につき、訴外会社との間に、前記公証役場において、登簿第二万二千九百二十八号公正証書により同月二日までに支払う旨の債務弁済契約を締結した。

ところで、右各原告等は、昭和二十九年五月十一日松山地方裁判所西条支部より、次項(ニ)に記したる、被告が訴外会社に返還すべき債権に対し、右各原告が訴外会社に対して有する前記それぞれの債権の限度において、債権差押並に転付命令を得、右命令はいずれも同月十二日債務者たる訴外会社及び第三債務者たる被告に送達せられた。

(2)(イ)  原告鏡原艶子は昭和二十九年三月六日訴外会社に金十万円を貸与し、その支払期日である同月末日までに右金員の支払を受けられなかつたので同年五月十二日右債権につき、訴外会社との間に、前記公証役場において、登簿第二万二千九百五十五号公正証書により同月十三日までに支払う旨の債務弁済契約を締結した。

(ロ)  原告岡兼三は訴外国方昇より、(同訴外人は訴外会社の更生管財人としての一ケ月金三万円の報酬をえているところ、同訴外人は同年二月分より同年五月分までの報酬合計金十二万円を受領しておらず、訴外会社に対して金十二万円の報酬債権を有する。)同訴外人が訴外会社に対して有する債権金十二万円の内金八万円の債権の譲渡を受けたので、同年五月十二日訴外会社との間に、前記公証役場において、登簿第二万二千九百五十四号公正証書により訴外会社において前記債権譲渡を承認し、同月十三日までにこれを支払う旨の債務弁済契約を締結した。

ところで、同年五月十九日前記裁判所より、次項(ニ)に記したる、被告が訴外会社に返還すべき債権に対し、右同原告は、訴外会社に対して有する前記各債権の限度において、債権差押並に転付命令を得、右命令は同日債務者たる訴外会社に、同月二十日第三債務者たる被告にそれぞれ送達せられた。

(3)  原告高倉礦業株式会社は訴外会社に対し、昭和二十八年十月八日金五十八万一千四百円、同年十月十日金五十万円、同年十一月十日金七十五万千二百九円、合計金百八十三万二千六百九円の貸金債権を有し、その支払期日たる昭和二十九年一月末日までに支払を受けられなかつたので、同年五月二十二日右債権につき、訴外会社との間に、前記公証役場において、登簿第二万三千二十七号公正証書により、同月中に支払う旨の債務弁済契約を締結し、内金三十二万円の債権につき、同月二十六日前記裁判所より、次項(ニ)に記したる、被告が訴外会社に返還すべき債権に対し、右原告会社は、訴外会社に対して有する前記債権の限度において、債権差押並に転付命令を得、右命令は同月二十七日債務者たる訴外会社及び第三債務者たる被告にそれぞれ送達せられた。

(二)(1)  ところで、訴外昭和製紙株式会社は昭和二十八年五月一日松山地方裁判所西条支部において更生会社法に基く更生手続開始決定を受けたのであるから、同年四月三十日以前の右会社に対する被告の有する電力料金債権は次の理由により更生債権である。

(イ)  会社更生法によれば更生手続開始前の原因に基いて生じた債権は原則として更生債権とし、裁判所の許可を得て弁済する場合以外は更生手続によらなければ弁済を受け得ない。仮に、管財人が弁済しても公平を害するおそれがあるからその弁済は無効である。たゞ、更生手続開始前の原因に基いて生じた債権であつても特に同法第百十九条、第百三条及び第百四条に定める場合には共益債権として扱い、更生手続によらないで随時弁済できることとしている。

(ロ)  被告は訴外会社が昭和二十八年四月以前の電力料を未払の儘更生手続開始決定を受けた点につき、同法第百三条第一項の「右手続開始当時まだともにその履行を完了しないとき」に該当するとの見解を主張するが、右開始決定より前に送電された電気は既に履行が完了しているものであり、右電力料債権を共益債権とする趣旨ではない。

(ハ)  会社更生法第百十九条によれば更生手続開始前六ケ月間の会社使用人の給料は共益債権として請求できる旨規定している。この趣旨は雇傭の如き継続的双務契約においても更生手続開始前の給料は本件更生債権であるが、労働者を保護する特殊の必要上共益債権として随時弁済を認めたものであるから特別の規定のない電力料は共益債権ではないと言える。又、破産法第四十七条によれば税金等は財団債権として扱つているのに、会社更生法第百十九条においては源泉徴収に係る税と特別徴収義務者が徴収する地方税で、更生手続開始決定当時末だ納期の到来しないものに限つて共益債権とし、その他は更生債権とし、更に徴収方法につき同法第六十七条において徴収の猶予をしている。かゝる規定よりも明らかなる如く、特殊の理由から共益債権とした二、三の場合を除いては更生手続開始前の債権は一応更生債権として弁済を禁止し、会社の更生を速かならしめんとする同法の精神から見ても電力料債権を共益債権とする理由はない。

(ニ)  事実上も訴外会社は昭和二十八年二月十一日頃から同年五月末までは休業し電力を使用していなかつたものである。

(2)  従つて、同年四月三十日以前の訴外会社に対して有する被告の電力料金債権は、更生債権として前記裁判所の許可を得るか、更生計画案の認可による支払を受ける以外に、訴外会社より支払を受けることはできないに拘わらず、被告は同年五月十六日より同年六月三十日までの間に四回にわたり同年四月三十日以前の電力料未払金の内金七十八万三千五百十三円を訴外会社更生管財人国方昇より支払を受けている。右は会社更生法第百十二条により無効な弁済であるから被告は右金額を不当に利得しているので、訴外会社に対し返還する義務がある。

(三) 以上の如くであつて、被告は各原告からそれぞれ前記の転付命令の送達を受けたに拘わらず、各原告等の請求に応じないので、原告等は被告に対し、請求趣旨記載通りの判決を求める為本訴請求に及んだ。」<立証省略>

被告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その答弁として次のように述べた。

「(一) 請求原因第一項中、訴外昭和製紙株式会社が昭和二十八年五月一日松山地方裁判所西条支部において、同会社に対する更生手続開始決定を受けたこと、及び被告が原告等主張の如き債権差押並に転付命令をそれぞれ送達せられたことは認めるが、その余の事実は全部知らない。又、請求原因第二、第三項中、被告が同年同月十六日より六月三十日までの間に被告の右訴外会社に対する同年四月三十日以前の電力料債権の内金七十八万三千五百十三円の支払を受けたことは認めるが、その余の部分については争う。

(二) 凡そ、更生手続開始決定当時に存する未払電力料金債権は、次に記すような理由により共益債権であり、従つて会社更生法第二百九条に基き、更生手続によらないで随時優先弁済を受け得るものであるから、被告が前記電力料金を受領したことは何等不当利得したものではなく、原告等の請求は失当である。

(1)  電気供給契約は、通商産業省(元、公益事業委員会)の認可を得て、(電気に関する臨時措置法、旧公益事業令第三十九条)一般に公表せられた(同令第四十三条)電気供給規程を内容とする附合契約であつて、これによれば需要家が電気料金を検針の日より二十日以内に支払えば一定の割引を受けるが、右期間を経過したときは割引を受けられず、その後三十日以内に全額を支払わねばならないことになつており、なお、これに応じないときは右期間満了の翌日、即ち、検針の日より五十日を経過した翌日から請求総額及び一定の再接続手数料の支払を完了するまで電力会社は送電を停止し、更に供給契約自体を解除しうることになつている。又、この供給契約は期間の定めのない永続的供給契約であつて、需要家より廃止の申出があるか、又は右の解除によつて終了せしめられる場合があるだけである。これが典型的な有償双務の継続的供給契約であることは論を俟たない。

(2)  会社更生法は同法第百二条の、更生手続開始前の原因に基いて生じた会社に対する財産上の請求権は更生債権とすると言う原則に対し、特に第百三条、第二百八条第七号第百四条第二項の規定を置き、前述の原則に対する特則を設けている。即ち、双務契約について、会社及その相手方が更生手続開始当時未だともにその履行を完了しないとき、(従つて、会社及び相手方が一部の履行をなしていても、全部の履行のない限り未だともにその履行を完了しないとき、に当る)は、管財人は、契約を解除し(契約を解除したときは、同法第百四条第二項後段により相手方は反対給付の価格につき共益債権者としてその権利を行うことが出来る)、又は会社の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することが出来るのであつて、この場合の相手方の有する請求権は同法第二百八条第七号により共益債権である。而して、右の会社が相手方の債務の履行を請求する場合には会社が先履行の立場になるのであつて、又、相手方は管財人に対し契約を解除するか、債務の履行を請求するかについて確答を催告することが出来、管財人が右催告後三十日以内に回答しないときは、解除権を放棄したものとみなされるものである。

(3)  以上で明らかな如く、電気供給契約における過去の供給済電力に対する会社の電気料金支払債務と、電力会社の将来の継続的電気供給義務とは互に対価的な牽連関係にあり、供給電力に対する代金支払のない限り電力会社は同時履行の抗弁(これは供給契約にも明文があるが、)を以つて、将来の電気供給を拒否し得るのであり、これが為に不履行の責を負わない。従つて、電気供給契約存続の途中において需要家の更生手続が開始せられ、その時までの未払電気料金が存する場合(更生手続が検針後に開始せられると否とを問わない)には、更生手続開始決定前の供給電力に対する更生会社の料金支払債務と、電力会社の将来の電気供給義務とは、供給契約が解除せられない限り、互に対価的牽連関係にあるから、供給契約全体からみれば、更生会社、電力会社共に、契約上の義務履行を完了していない場合に当ると言わねばならない。従つて、管財人は将来引続いて電気の供給を受けようとすれば、更生会社の未払電気料金債務を履行してはじめて爾後の電気供給を求めうると言わねばならない。この管財人の履行に対する電力会社の請求権は共益債権である。(既に検針後五十日を経過し、送電停止を受けている場合には右延滞電気料金の外に、再接続手数料をも支払つてはじめて送電開始を請求しうるものである。)

(4)  なお、企業上電力を使用する会社にあつては、電力は正に、その活動力の源泉であつて、これを除いて具体的企業活動は考えられない、その供給を受けることは企業の活動と価値を維持し、更生のための不可欠の要素であり、従つて、全企業財産の価値を保持保全する電気供給より生ずる電気料金は民法上もその第三百六条第一項第一号の供益費用として取扱われるものである。又、実際上において、滞納料金は更生債権として一応棚上げし、電気供給債務の履行のみ依然要求するというのでは電力会社は著しい不利益を受けることになるので、これが需要には応じられない。そうすると、更生会社は電気の供給を受けえないこととなり、その更生に一大支障を生じ、その更正は殆んど不可能となるだろう。

(5)  又、更生手続開始決定以前の未払電力料金債権について、更生会社より優先弁済を受けている実例は、関西電力株式会社(十五件)中国電力株式会社(六件)及び九州電力株式会社(六件)等において多数存するところである。」<立証省略>

理由

訴外昭和製紙株式会社(昭和二十八年五月二十八日より高倉製紙株式会社と変更した)が昭和二十八年五月一日松山地方裁判所西条支部において同会社に対する更生手続開始決定を受けたこと、及び被告が同年同月十六日より同年六月三十日までの間に訴外会社より(被告が同訴外会社に対して有する)同年四月四十日以前の電力料債権の内金七十八万三千五百十三円の支払を受けたことについては、いずれも当事者間に争がない。

成立に争のない甲第一乃至第九号証の各一乃至四及六、並に弁論の全趣旨を綜合すると原告等が訴外会社に対しその主張(一)の(1) 乃至(3) の債権を有することを認めることができる。

ところで、原告等は前記被告の右訴外会社に対する(同会社の受けた更生手続開始決定以前である)昭和二十八年四月三十日以前の未払の電力料金債権は、同訴外会社の更生債権であると主張し、被告は、右は共益債権であると抗争するので、この点について判断する。

(一)  会社更生法はその第百二条に「会社に対し更生手続開始前の原因に基いて生じた財産上の請求権は更生債権とする」と規定し、一応すべての債権は更生手続に参加し、権利の内容に応じた分配を受ける権利に変貌せしめられることとなつており、開始手続前の原因に基いて生じた財産上の請求権は、原則として更生債権として取扱われる。しかし、更生手続開始前の原因に基いて生じた債権であつても、例外として、特に共益的性格の強いものについては、これを共益債権として更生手続によらないで優先弁済を受けうることとして、同法第二百八条各号及び第六十七条第七項、第六十九条第一項、第百四条第二項、第百十九条、第百五十五条に列挙規定する。

(二)  ところで、被告は、前記未払電力料債権の基本契約たる電気供給契約は双務契約であり、前記電力料債権は同法第百三条第一項の「双務契約について会社及その相手方が更生手続開始当時まだともにその履行を完了しないとき」に該当し、従つて、同法第二百八条第七号、第百四条第二項により共益債権であると主張する。

成立に争のない乙第一号証及び弁論の全趣旨を綜合すると、前記電気供給契約は、四国電力株式会社電気供給規程(昭和二十七年五月十一日改訂)により、当該月の使用電力量は、前回の検針(電力計測器の検計)より当該月の検針までを当該月の使用料とし、需要者が電気料金を検針の月の一日より同月末までに支払えば一定の割引を受けるが、右期間を経過したときは割引を受けられず、検針の日より五十日を過経した翌日から請求総額の他に、日歩四銭の割合による延滞利息を支払わねばならない。若し、電気料金の支払を延滞した場合には、電力会社は送電を停止し、又は該供給契約自体を解除しうる。そして、需要者よりの廃止の申出によるか、又は右の解除によつて、該契約は終了すること等を内容とした期間の定めのない継続的供給契約であることが認められ、従つて、右契約は有償双務の継続的供給契約であると解されるところ、凡そ、かゝる継続的有償双務契約は、当事者の一方が継続的に電気等の供給義務を有し、相手方は一定期間を画して、その一定期間経過後に、その経過期間に受けた給付に対して反対給付をなすことを内容とするものであるから、かゝる契約において、その一方及び相手方の履行の有無を判断するには、一時点をとらえ、その時点以前につき双方当事者の履行の有無を判断すべきものと解するを相当とする。たとえ、その反対給付の内容が前の一定期間の供給量をもつて次の期間の供給量に対する反対給付の如く取扱われたとしても、又、一方の将来の供給義務が一時点における相手方の反対給付の有無にかゝつていたとしても、それは継続的供給契約の性質上、一方は継続的に契約の目的たる給付を提供しても、相手方は即時にこれが反対給付をなすことが困難なので、便宜上衡平を担保する為にかゝる取扱いがなされるにすぎず、この点に関する約旨の如きは一にその履行方法についてのものであつて、契約の本旨たる履行の有無を判断する根拠とはならない。従つて、前記更生手続開始決定前の本件電力料債権につき、その基本たる電気供給契約における履行の有無の判断をするには右開始決定の時を基準として判断すべきものと解する。

ところで、弁論の全趣旨によると、被告たる電力会社は右更生手続開始決定時まで約旨に従つた電力の供給を終つているのに対し、訴外会社は右受給電力料金の支払をせず、従つて未だ反対給付をなしていないことが認められるので、右の未払の電力料については、右電力会社たる一方は既にその履行を終り、他方たる訴外会社はまだその履行をなしていないこととなるから、本件電力料債権は、会社更生法第百三条第一項の規定に該当しないものと解される。従つて、右に関する被告の見解はこれを採用することができない。

(三)  しかし、一般に製紙会社がその事業を経営して行くのに電力が必要欠くべからざるものであることは公知の事実であるところ、訴外会社が更生会社として真に更生会社法の制度の趣旨に従つてその経営を継続して該会社の更生を計るには、電力は必須不可決のものであると解せられ、且つ、前示認定の如く、若し、更生管財人において更生会社のために更生手続開始決定前の電力料金を支払わない場合には、前記電気供給契約の約旨に基き、被告たる電力会社は右決定後の電力の供給を拒絶する結果となり、かくては切角の会社更生のための会社の経営継続は不可能となるので、右決定前の本件未払電力料債権は所謂会社更生法第二百八条第八号の「会社のために支出すべきやむを得ない費用」に該当し、共益債権となると解するを相当とする。

されば、被告が更生手続開始決定前の訴外会社に対して有する未払電力料債権につき、右決定後に更生手続によらないでその弁済を受けていても何等不当な利益を受けたことにはならないから、被告は訴外会社に対してこれを返還する義務を負担しない。

よつて被告が訴外会社に右電力料金の返還義務あることを前提とする原告等の請求はこの点において失当であるから、いずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 谷本益繁 弓削孟)

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